ショ糖と人工甘味料の決定的な相違はエネルギーの有無にあることは明白であるが、ショ糖のもたらす高度な満足感がどのような機構で発現するのかについては未解明な部分が多く残されている。本研究では身体のエネルギー状態により誘引される甘味要求性・嗜好性変化の発現機構と口腔内エネルギー情報伝達機構を中枢・末梢の両側面から統合的に検討することを目的とする。 1. エネルギー枯渇状態が甘味嗜好性ならびに甘味感受性に及ぼす影響 エネルギー枯渇状態において、糖を唯一のエネルギー源とする脳では、甘い=美味しいという快情動をより迅速に誘引するために、甘味に対する感受性を高め、選択的かつ効率的な糖質摂取ができるシステムが構築されていると予想される。C57/BL6マウスを用い、エネルギー状態を呼吸商測定により詳細にモニターしながら、甘味選択性と感受性の変化について2瓶選択実験法やリック回数測定実験で検討した。 2 瓶選択試験においては、どのマウスもショ糖を有意に選択するが、エネルギー代謝の状態が変化する事によって人工甘味料との差が顕著に認められた。これは、消化後の影響が大きく関与していると予想された。さらに、健常なマウスを用いたリック試験では、ショ糖と人工甘味料に顕著な差は認められなかったが、ストレプトゾトシン投与で糖尿病状態にしたマウスではショ糖のリック回数が増加した。細胞内への糖取り込みができない状態のマウスでは、糖尿病患者と同様の極めて深刻な糖への渇望が起こっていると予想される。マウスが口腔内でエネルギー情報を獲得しているのか、実験のトレーニング中にショ糖と人工甘味料との味質の差を消化後のエネルギーの有無とで連合学習しているためか、今後さらに検討していく。
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