本申請研究では身体のエネルギー状態により誘引される甘味要求性・嗜好性変化の発現機構と口腔内エネルギー情報伝達機構を中枢・末梢の両側面から統合的に検討し、ショ糖に高度な満足感を付与するエネルギー情報を解析することを試みた。エネルギー代謝が変化した状態のひとつとして、ストレプトゾトシン(100mg/kg)の腹腔内投与により糖尿病モデルマウスを作成し、健常なマウスと糖尿病マウスの甘味嗜好や感受性の変化について2瓶選択実験法やリック回数測定法により検討を行った。その結果、糖尿病群では健常群に比して1分間のショ糖ならびにサッカリン溶液呈示において、嗜好性を示す濃度閾値が低くなることが明らかとなった。糖尿病発症により口腔内での甘味の感受性が高まったと考えられる。しかし一方で、糖尿病マウスでは溶液呈示開始1分間におけるサッカリンへの執着度が健常群より有意に低下しており、消化後の影響を受けない口腔内での甘味以外の情報取得がある可能性が強く示唆された。脳内ダイアリシス法によるショ糖並びにサッカリンの摂取時におけるドーパミン遊離量には2群間に差は認められていない。本研究から導きだされた結果は、ショ糖の有する満足感が甘味という味質のみならず、エネルギーそのものの情報が重要であることを示唆し、ショ糖同様の高度な美味しさを呈する代替甘味料開発に有用な基盤となり、食事制限による満足感の減退改善を通して多くの糖尿病患者のQOL向上に貢献できることが期待される。
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