研究概要 |
本研究は,ニラ抽出物の示すピロリ菌増殖抑制効果に関与する物質の特定,および抑制効果の発現メカニズムの系統的な解明を行い,ピロリ菌の除菌治療と予防を補助し得る食品の開発,ならびに新薬剤素材の提案を目的とするものである.昨年度までの研究により,ニラ抽出物が,分離元の疾患、地域、遺伝子型、性別、抗生物質耐性の異なるピロリ菌株(51株)全てに対して増殖抑制効果を示すこと,ならびにその効果に殺菌作用の関与があることが明らかとなり,臨床の場で問題となっている抗生物質耐性ピロリ菌の除菌に対して,ニラ抽出物の使用が有効であることが示唆された.また,ピロリ菌増殖抑制効果を示す物質の前駆体はメチインであることも明らかとした. そこで今年度は,ピロリ菌増殖抑制効果関与成分の特定を行うとともに,ピロリ菌増殖抑制の詳細なメカニズムの解明に取り組んだ.まず,メチイン,およびアリインの標品を用いてHPLC定量分析を行ったところ,ニラ1g中にメチインとアリインはそれぞれ2.03mgと0.0065mg含まれていた.この2種の標品をそれぞれニラに含まれている量で粗酵素溶液と反応させたところ,メチイン酵素反応液にニラ磨砕液と同様の活性が認められた.この反応液をGC-MSで測定すると,ニラ磨砕液に含まれるS-methyl methanethiosulfinate, dimethyldisulfide, dimethyltrisulfideが検出された.また,メチイン酵素反応液を100℃で加熱すると,S-methy lmethanethiosulfinateの減少に伴い抗ピロリ菌活性も低下した.これらのことより,ニラの有する抗ピロリ菌活性の大部分は,メチインから誘導されるS-methyl methanethiosulfinateに起因するものであることが示唆された.
|