研究課題
腸内の恒常性の維持には、生体最大の免疫系である腸管免疫系と腸管に大量に生息する腸内細菌から成る腸共生系が重要な役割を果たす。そこで、食品の腸共生系に対する調節作用を利用して腸管における炎症反応を制御することを目的とし、腸管の1.マスト細胞、2.上皮細胞と腸内共生菌との相互作用の分子機構について以下の解析を行った。1.Lactobacillus菌体をマウス骨髄由来マスト細胞(BMMC)のin vitro分化系に添加することにより、BMMCの脱顆粒反応の抑制及び顆粒形成の抑制が観察された。微生物菌体成分を認識するToll様受容体からのシグナル伝達に重要な分子であるMyD88の欠損マウス由来BMMCを用いて解析を行ったところ、これらの抑制作用のうち前者はMyD88非依存的であり後者はMyD88依存的であることが明らかになった。一方、BMMCの成熟期間中のLactobacillus菌体の刺激により、成熟後のBMMCの微生物菌体刺激に対するケモカインMIP-2の産生が増大した。したがって、腸内共生菌が腸管におけるマスト細胞の終末分化過程に作用し、食物アレルギーなどの炎症反応に関わる腸管マスト細胞の機能を調節する可能性が示された。2.通常、無菌、MyD88^<-/->マウスの小腸及び大腸の上皮細胞を調製し、TLR4遺伝子のメチル化およびmRNA発現量を解析した。その結果、腸内共生菌が大腸上皮細胞におけるTLR4遺伝子のメチル化の誘導あるいは維持に関わること、この作用は部分的にのみMyD88依存的であることが明らかになった。したがって、腸内共生菌が腸管上皮細胞の遺伝子のエピジェネティックな修飾を調節することにより腸管における炎症反応を制御することが示唆された。1および2で明らかになった分子機構は、腸共生系の恒常性の破綻に起因する炎症反応を食品により制御するための有用なターゲットとなる可能性が期待される。
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