超臨界二酸化炭素を用いた殺菌および酵素失活法(以下、SC-CO_2殺菌)は約60年前から研究が行われているが、装置コストが高くなることや香気成分の損失などの問題から未だに実用化に至っていない。また、SC-CO_2殺菌の殺菌機構については未だに明らかにされていない。近年、我々は低装置コストおよび低ランニングコストの殺菌および酵素失活法である低加圧二酸化炭素マイクロ・ナノバブル(以下、MNB-CO_2)法を開発した。そこで、本研究ではMNB-CO_2法の殺菌機構の解析(研究1)およびMNB-CO_2法による日本酒の殺菌および酵素失活(研究2)の2つのテーマについて行った。 1殺菌機構の解析:MNB-CO_2処理後の酵母細胞から核酸およびタンパク質の細胞外への漏出を確認したことから、酵母細胞のMNB-CO_2処理による損傷の可能性がうかがわれた。 2日本酒の殺菌および酵素失活:MNB-CO_2処理により火落菌の殺菌および酵素失活を行い、処理前後の日本酒の香気成分分析および官能評価を行った。45℃のMNB-CO_2処理により、生酒中の火落菌の生菌数は検出限界以下となり、残存酵素活性は著しく低下した。日本酒の吟醸香成分であるイソブチルアルコールおよびイソアミルアルコールはMNB-CO_2処理後においてもほとんど減少しなかったが、酢酸エチル、酢酸イソアミルおよびカプロン酸エチルは約30%程度減少した。しかしながら、MNB-CO_2処理酒を回収する際に、冷却コイルを通過させることによりMNB-CO_2処理による香気成分の損失は著しく抑制可能であった。また、生酒、加熱処理酒およびMNB-CO_2処理酒の官能評価の結果、MNB-CO_2処理酒は味および香り共に生酒および加熱処理酒よりも極めて良好な結果となった。以上の結果から、火入れ(加熱処理)に替わる日本酒の殺菌および酵素失活法としてのMNB-CO_2処理の有効性が示唆された。
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