研究概要 |
本研究では,房総半島南東部にある東京大学千葉演習林における110年生二次林を対象に,胸高直径5cm以上の488本の立木の胸高年輪数を計測して,樹齢構成を明らかにするとともに,それら樹齢データを利用して寿命分布を推定し,伐採可能木を予測した。 計測に使用した機械はリンテック社製レジストグラフで,直径2mm,全長45cmのニードルを樹木に陥入し,陥入抵抗値を0.01mmの分解能で波形グラフとして出力するものである。そして樹皮側より(胸高半径-2.5)cmに含まれる波形数を胸高年輪数とみなした。この年輪数は進界以降の樹齢をあらわす。また488本の立木について,1999年および2009年の定期調査データより,生存木と枯死木(1999年時点では生存しており,その後10年間で枯死したもの)を識別した。 解析の結果,進界後の樹齢分布は全立木でみると若齢木の豊富な指数型であったが,樹種別にみると指数型と単峰型に分かれた。また全立木の樹齢の平均は31年,標準偏差は26年で,寿命の平均は108年,標準偏差は180年であった。さらに寿命分布による,樹齢別枯死本数の推定値は計70本となり,これは観測値の76本と比して-7.9%の誤差率にあたり,モデルの予測精度は良好であった。平均樹齢が平均寿命より大幅に小さいことから,当該林分は遷移段階の途上で極相状態に達するには時間を要すると推察され,同時に,推定した寿命分布は安定したものでなく,樹齢構成の推移とともに変動すると推察された。また収穫予測の観点からは,樹齢が平均寿命の108年を上回っている立木は伐採可能と見なし得,さらに現状の寿命分布が今後10年間は変動しないと仮定した場合に予測される枯死木のうち,たとえば樹齢が50年以上の8本の立木は伐採可能と判断された。なお現場で実際に伐採木を選木する際には,樹齢の情報を胸高直径の情報に変換することが有効と考えられる。以上,本研究により樹齢情報を利用した新たな天然林管理の可能性が示された。
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