アリ類を生物指標として、森林生態系の変化を地点間の相対評価によって明らかにするとともに、簡便・安価な調査・測定法を確立することを目的として、アリ類・環境因子の調査およびアリ類採集道具(吸虫管)の作成費用の検討を行った。本年度は栃木県日光地域に位置するシカによる生態系改変の程度の異なる3地点(シカ密度:高、中、低)において野外調査を実施した。その結果、シカのインパクトの強い地点において、不嗜好植物が増加し、ササが減少していた。また、林床リター量は3地点で同程度であったけれども、シカのインパクトが強いほど、ミミズ個体数が多く、林床リター量に占める落葉の割合が高い傾向がみられた。一般的にミミズの個体数の多い場所ではリターの分解速度が速いことが知られているが、これらの結果はシカ高密度地点ではミミズが多いけれども、分解速度は遅くなっていることを示している。アリ類の出現頻度・個体数は、シカのインパクトが強いほど少なく、これらの傾向は実施したアリ類採集法の中で最も簡便な方法である餌誘引法によっても検出された。このことは、労力を軽減した方法でもある程度の精度で森林生態系の変化を評価できる可能性を示している。 また、短時間で同時に多人数による定量調査を実施するのに適している単位時間見取り法にかかる費用を計算するために、アリ類の採集道具である吸虫管の作成費用を算出した。その結果、吸虫管の作製コストは50個作成で、1個あたり約180円(工具費用も含めると約320円)であった。これらの結果は環境調査を実施する経費を考えるうえで参考になるものと言える。
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