栃木県日光地域のシカによる生態系改変の異なる3地点(シカ密度:高、中、低)においてアリ類を調査した平成21年度の結果から、森林生態系変化の程度が、簡便な方法であるアリ類の餌誘引法によって評価できる可能性が示唆された。それらの結果を踏まえて、平成22年度には、同地域においてシカのインパクトの程度が異なる森林を17ヶ所と地点数を増やして、前年と同様のアリ類調査を実施した。シカによる採食・踏圧が、環境因子である植物群落の種構成、土壌含水率などに影響し、アリ類の活動性に及ぶ可能性が考えられたことから、それら環境因子とアリ類の出現頻度・個体数との間に相関があるかどうかを解析した。その結果、植物群落の種構成、土壌含水率の両方とも、アリ類の出現頻度・個体数との間には明瞭な関係はみられず、平成21年度の結果とは異なる傾向を示した。両年度で結果が異なった要因として、平成22年度の調査地は平成21年度の調査地よりも高標高で気温が低かったため、餌誘引によるアリ類の出現頻度が全体的に低かったことが考えられた。このことは、アリ類の出現頻度・個体数による森林生態系変化の評価法は、標高や気温によってその精度が異なることを示している。 両年度で採集したアリ類において使用したデータは出現頻度・個体数だけであるため、引き続き種同定をおこなうことにより、アリ群集の種構成を解析し、シカの生態系改変に対するアリ類の生物指標としての有効性を検討する予定である。
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