研究課題
伝染性森林病害マツ材線虫病は、病原体マツノザイセンチュウが特定されて以降40年近く経つ現在もなお有効な防除法が確立されておらず、被害拡大を食い止められずにいる。本病の防除が困難な理由としては、そもそも本病の病原機構が完全に解明されていないために、対症療法を取らざるを得ないことが挙げられる。感染宿主における詳細な病徴進展過程についてはこれまでにも報告例が多いものの、感染成立の可否を決定する因子はいまだ仮説の域を出ない。本病の病原機構の解明を目的とした本研究は、本病の感染成立の場に着目し、(1)マツノザイセンチュウと(2)宿主植物の両者を研究対象として初期認識機構の全貌解明を目指した。(1)昨年度に引き続き、マツノザイセンチュウ分泌タンパク質の網羅的同定を行った。2011年に公開されたマツノザイセンチュウのゲノム情報(Kikuchi et al., Plos Pathogens, 2011)を利用し、LC-MS/MS解析を行うことにより1360種の分泌タンパク質を同定した。その結果、マツノザイセンチュウでは他種線虫と比較してプロテアーゼ、細胞壁分解酵素、抗酸化酵素が特に多く分泌されていることが確認された。(2)宿主であるマツ属樹に関しては、病原力の異なる2系統の線虫を人工接種した感受性クロマツにおける発現遺伝子群の量的比較(cDNAサブトラクション法)を行った前年度までの結果をもとに、マツノザイセンチュウ感染後に特異的な挙動を示す遺伝子群を選抜し、リアルタイムPCRによる定量解析を行って遺伝子発現の経時変化をモニタリングした。その結果、強病原力系統のマツノザイセンチュウは、宿主への侵入初期に宿主防御応答をなんらかの方法で抑制または回避している可能性が示唆された。
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