本研究では、内陸アラスカの北方林が受けた撹乱からの回復過程において、遷移の各段階で優占する植物種の窒素養分利用に関する生理特性を調査した。これにより、撹乱からの回復過程において種の養分利用に関する性質が系の種構成を規定し得るのか、撹乱を受けた環境条件下では養分利用に関してどのような性質を持った種が優占するのかについて把握し、植生回復過程について植物生理生態学的な側面から解明することを試みた。 調査は米国アラスカ州のほぼ中央に位置するフェアバンクス市近郊で行った。植物が利用する窒素の形態により窒素同化過程が大きく異なることを利用し、硝酸態窒素を利用する場合に機能する硝酸還元酵素活性を指標として、植物が硝酸態窒素を利用する能力を調査した。撹乱後の経過年数が異なる調査地を選定することにより、異なる遷移段階において優占する植物の硝酸還元酵素活性を測定した。 これまでに行われた調査の結果に基づき、本年度は夏季および冬季に調査を行った。夏季の調査においては、遷移初期に出現する落葉広葉樹種が盛んに硝酸態窒素を利用していることが示された。冬季においては遷移後期種である常緑針葉樹が非常に低温の条件下で硝酸態窒素を同化していることが示された。北方林の土壌中の窒素動態に関して、従来軽視されてきた冬季の動態が無視できないということが近年になって明らかにされている。本研究の結果は、このような冬季の窒素動態において植物による寄与がある可能性を示している。 近年、気候の変動に起因するとされる撹乱の規模や頻度の変化が観察されている。本研究の成果はそのような状況における森林生態系の撹乱に対する反応の解明、ひいては将来についての予測にも寄与するものと期待される。
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