一般に、植物の葉の窒素濃度は、展葉開始時には高く、その後展葉に伴って低下することが知られており、この現象は、展葉開始時に葉に含まれていた窒素が展葉に伴って希釈されることにより生じるとされる。これまでに、温帯の植物を対象とした調査では、植物が硝酸態窒素を利用する場合に機能する硝酸還元酵素の活性は展葉の開始とともに急激に上昇し、展葉の完了とともに低下することが示されている。この季節変化のパターンは、葉の窒素濃度は展葉期に低下するが、その少なくとも一部は展葉する葉自身の働きによって補完されることを示している。 本研究では、植物の生育期間が短く、展葉期間も温帯に比較して短い北方林における植物の硝酸態窒素利用の季節変化を明らかにした。遷移初期~中期の北方林に優占する3種の木本を対象として、展葉期間中の葉の硝酸還元酵素活性、総窒素濃度、窒素安定同位体比の変化を調査した。調査は米国アラスカ州フェアバンクス市(N64°50′17″、W147°43′35″)近郊で行った。 調査の結果は、北方林の植物も温帯の植物と同様、展葉期間中に硝酸還元酵素が高くなる時期があることを示した。しかし、硝酸還元酵素活性のピークが展葉期初期の種、中期の種、後期から展葉後まで高い活性が見られる種があり、最も盛んに硝酸態窒素を同化する時期は種によって異なる様子が見られた。3種のうち1種は窒素固定菌と共生し、大気中の窒素ガスを窒素源として利用出来る種であった。この種では、窒素安定同位体比が大気に近く、大気中の窒素ガスを窒素源として利用していることが示された。さらにこの種では展葉の最初期に窒素安定同位体比が急激に変化し、葉に供給された窒素源が大気から土壌中の硝酸態窒素に変化した可能性が示された。
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