研究課題/領域番号 |
21780154
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
高橋 一秋 長野大学, 環境ツーリズム学部, 准教授 (10401184)
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キーワード | ツキノワグマ / 間接効果 / エコシステムエンジニア / 生物間相互作用 / 野生動植物 / クマ棚 / 林冠ギャップ / 結実 |
研究概要 |
本研究は、クマ棚の形成に伴う林冠ギャップの創出が下層の林内植物の繁殖や更新に及ぼす影響(ツキノワグマと林内植物の間接効果研究)と、クマ棚の形成が小型動物のハビタット創出に与える効果(エコシステム・エンジニア研究)を分析することを目的とする。生態学的なクマ棚研究の新領域を開拓し、森林生態学の分野に新たな視点と分析軸を提供する。23年度は22年度に引き続き、本研究の基礎固めとなる「クマ棚の実態と形成要因」に関する「基礎研究」を長期モニタリング・プロット(20m×50m×18個)で実施し、6年間に創出された小規模林冠ギャップの面積と空間分布の特徴を明らかにするとともに、その成果を投稿論文(英文)にまとめた。プロット内に出現する胸高直径15cm以上の樹木に対して、一年間のフェノロジー(展葉期、開花期、結実期、落葉期)、果実の成長(サイズと色)、およびクマの木登り行動を詳細に調査し、クマが樹上資源を利用する季節パタンを明らかにした。これらのクマの基礎生態に関する研究成果は、今後のクマ棚研究の発展にとって有益な情報となった。また、林冠部における小規模林冠ギャップの形成がその下の液果植物の結実促進に与える効果を2年半の野外調査によって検証し、その成果を投稿論文(英文)にまとめた。 「ツキノワグマと林内植物の間接効果研究」および「エコシステム・エンジニア研究」からなる「フロンティア研究」については、調査手法の開発を精力的に実施した。例えば、照度センサを利用してクマが作った小規模林冠ギャップ下の光環境を階層別に長期モニタリングする方法を開発した。また、樹上のクマ棚を二次利用する哺乳類・鳥類をモニターする自動センサーカメラの設置手法と運用方法をほぼ確立した。さらには「フロンティア研究」に関わる新しい仮説を生み出せた。したがって、24年度以降に本格化する長期モニタリングの実施基盤を十分整備できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基礎固めとなる「クマ棚の実態と形成要因」に関する「基礎研究」は、当初の計画以上に進展し、本格的な「フロンティア研究」が実施できる基盤を十分に整備できた。一方で、「基礎研究」を予定以上に綿密に実施したため、樹上のクマ棚や林床にクマ棚から落下した枝をハビタットとして利用する小型哺乳類・鳥類・昆虫類調査、クマ棚から小川に落下した枝をハビタットとして利用する魚類・両生類・水生昆虫類調査については、十分な研究ができなかった。また、これらの調査は先行研究が皆無のため、調査方法の開発に予想以上に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
調査手法が開発途中にある「フロンティア研究」(樹上のクマ棚や林床にクマ棚から落下した枝をハビタットとして利用する小型哺乳類・鳥類・昆虫類調査、およびクマ棚から小川に落下した枝をハビタットとして利用する魚類・両生類・水生昆虫類調査)については、上記の理由から、4年間の研究期間中に十分な研究成果を上げることは難しいと判断できる。したがって、最終年度はこれらの調査手法の確立を目指し、その後の本格的な「フロンティア研究」の実施基盤を整える。今年度は「基盤研究C」への申請を計画しており、本研究をさらに継続・発展させると同時に、研究期間中に生み出された新しい仮説を検証する予定である。本研究は森林生態学の基礎研究の分野に新しい分析軸を提供するに留まらず、市民モニタリングの手法を導入しクマ棚形成の広域調査を実施することで、森林の結実状況やクマの生息密度が把握でき、将来的にはクマの人里出現の予測に応用できる可能性もある。
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