フタバガキ科Shorea属の雑種稚樹の葉の形態特性を明らかにするために、雑種稚樹と両親種の葉の特性を比較検討した。調査はシンガポールのBukit Timah自然保護区(164ha)で行った。林内に生育する稚樹のDNA解析により、Shorea leprosula×S.curtisii間の雑種を確認し、調査対象とした。また、雑種個体の近くで生育していた、両親種のS.leprosulaとS.curtisii稚樹も対象とした。調査には、被陰環境にあった各種5~7枚の葉を用い、葉脈対数、葉厚、クチクラ厚など葉内形態、葉の硬さ、葉面積あたりの葉重(LMA)、窒素濃度を測定した。 葉の厚さ、LMA、硬さはS.curtisiiで高くS.leprosulaで低かった。逆に、葉の窒素濃度はS.leprosulaで高く、S.curtisiiで低くなった。雑種個体の葉は両親種とほぼ中間的な特徴を示した。親種の生態特性として、S.leprosulaは、比較的低地に分布し、成長速度の速い先駆種的な特徴を持つが、S.curtisiiは丘陵林の尾根部を中心に分布し、比較的成長速度が遅いことが知られている。S.curtisiiの葉は、S.leprosulaや雑種個体に比べ、厚く、硬いためしおれにくい特徴を持っており、これらは尾根部の乾燥した環境に有利であると考えられた。一方、S.leprosulaの葉は、薄く柔らかいため乾燥によるしおれには弱いと考えられるが、葉の窒素濃度が高いため、光合成速度も高くなると予測された。この高い光合成速度はS.leprosulaの高い成長速度を実現する要因の一つになっていると考えられた。一方、雑種個体の葉の特性は、両親種とほぼ中間的な特徴を持っていたことから、生育適地や生態特性も両親種とほぼ中間的な位置にあると考えられた。
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