フタバガキ科Shorea属の雑種稚樹の葉の形態特性を明らかにするために、雑種稚樹と両親種の葉の生理生態特性を比較検討した。対象とする稚樹のDNA解析により、Shorea leprosula×S.curtisii間の雑種を確認し、調査した。また、両親種のS.leprosulaとS.curtisii稚樹も対象とした。調査は各種5個体を用い、飽和光合成速度、最大電子伝達速度、窒素濃度などを測定した。 葉の飽和光合成速度はS.leprosulaで最も高く、雑種、S.curtisiiの順に低くなった。蒸散速度、気孔コンダクタンスや葉内窒素濃度もS.leprosulaで高く、雑種、S.curtisiiの順に低くなった。一方、葉の水利用効率はS.curtisiiで高く、S.leprosulaに比べ、約2倍の値を示した。葉の厚さの指標となるLMAはS.curtisiiで高く、厚い葉を持つことが分かった。また、雑種個体の水利用効率やLMAなどの特性も、両親種のほぼ中間的な値を示した。両親種の生態特性として、S.leprosulaは、谷筋など斜面下部に分布し成長速度が速いが、S.curtisiiは尾根部を中心に分布し、比較的成長速度が遅いことが知られている。S.leprosulaは光合成速度が大きく、高い成長速度の一因になっていると考えられた。また高い葉内窒素濃度が高い光合成速度の維持に貢献していると考えられた。一方、S.curtisiiは、S.leprosulaや雑種個体に比べ、葉の水利用効率が高く、厚い葉を持つため、尾根部の乾燥した環境に有利であると考えられた。雑種個体の光合成能力や水利用効率などの特性は、両親種とほぼ中間的な特徴を持っていたことから、生育適地や生態特性も両親種とほぼ中間的な位置にあると考えられた。
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