フタバガキ雑種苗の乾燥に対する光合成など生理機能の応答を明らかにするために、雑種と両親種(S.leprosulaとS.curtisii)のポット苗の土壌を乾燥させる操作実験を行った。葉の耐乾性の指標となる夜明け前の水ポテンシャル(φ)やしおれ点での葉の水ポテンシャル(ψwtlp)は、実験前に比べいずれの樹種でも有意に低下し、乾燥に対して耐乾性を向上させていた。光合成能力の指標となる、最大光合成速度や光化学系IIの最大光量子収率(Fv/Fm)は、実験前後でいずれの樹種でも低下が見られたが、特にS.leprosulaで明瞭な機能低下が見られた。水利用特性の指標となる、気孔コンダクタンスや蒸散速度、水利用効率は、S.leprosulaが乾燥に対して水利用効率を変えずに高い蒸散速度を維持していたのに対し、S.curtisiiや雑種は乾燥に対して水利用効率を高めて対応している傾向が見られた。上記の結果は、各樹種の森林内での分布特性を明確に反映していた。つまり、谷部に生育し、成長速度の速いS.leprosulaは、耐乾性が低く、乾燥時に光合成系の機能が低下するものの、高い光合成・蒸散速度を維持し、水利用効率も低いままであり、強度乾燥時には死亡確率が増大する恐れがある。一方、尾根に分布し、成長速度が遅いS.curtisiiや、両親種の中間的な環境に分布し、成長速度も中間程度の雑種は、乾燥時に耐乾性や水利用効率を高め、光合成や蒸散能力の低下の度合いも低く、乾燥に対する適応能力も高いと考えられる。この結果から、今後熱帯雨林の乾燥化や降水パターンが変化すれば、耐乾性の低いS.leprosulaは生存確率が低下する恐れがあり、逆に耐乾性の高いS.curtisiiや雑種はS.leprosulaと置き換わって分布を拡大させる可能性があることが示唆された。
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