研究概要 |
アクアポリンは動物、植物、細菌など、ほとんどの生体に存在する膜タンパク質で、生体膜の水透過性を制御している重要な物質である。しかしながら、アクアポリンの発見は比較的新しく、樹木の葉の通水性、気孔開閉、光合成の制御機構に関するアクアポリンの働きについては未解明の点も多い。そこで、葉内のアクアポリン活性との関連が指摘されている葉の通水性の光依存性について陽葉と陰葉で比較し、葉が生育する光環境とアクアポリン活性との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。野外に生育するコナラの成木から陽葉と陰葉を採取し、実験室内で葉に強光を照射しその前後における葉の通水性の変化を調べ、葉構造との関連性について検討した。弱光条件下で測定した葉の通水性は陽葉の方が陰葉よりも高かった。強光を照射したときには、葉の通水性の増加の程度は陽葉のほうが陰葉よりも大きく、陽葉の方がアクアポリン活性は高かった。葉構造では、陽葉の方が陰葉よりも葉脈密度が高く、維管束鞘延長部が発達していた。葉の通水性が増加すると葉肉細胞への水分供給が改善されるので,葉は水ポテンシャルを低下させずに気孔を開口しガス交換することができる。従って、今回明らかとなった陽葉における葉の通水性の顕著な光感受性は、陽葉の高い蒸散要求に対応した特性の一つであると考えられる。また維管束鞘延長部は光を通すので、陽葉における維管束鞘延長部の発達が光刺激によるアクアポリンの活性を助長し、陽葉の顕著な光感受性を達成させていたことが示唆され、光環境の違いによる葉構造の変化と葉の生理特性との結びつきが明らかとなった。
|