研究課題
自然界には、機械的または動的な特性を示す多種多様な生体構造が見られるが、それらの多くはフィブリル状のナノ構造体を骨格としている。ナノフィブリルを構成する分子は、セルロースやキチン等の多糖類だけでなく、フィブロインやコラーゲン等のタンパク質等も含まれ、それらが階層的に組み上がる中で様々な素材と複合化することにより、優れた材料特性を示すようになる。本研究では、ナノフィブリルを骨格とする種々の生体構造に倣い、植物セルロースのTEMPO触媒酸化で得られるナノフィブリルの水分散液を出発として、機能的な階層構造を人工的に構築するアプローチを模索した。まず、出発のナノフィブリル分散液について、pHによりナノフィブリルの表面電位を制御したところ、pH3以下でナノフィブリルの分散配列を固定化(物理ゲル)することに成功した。この固定化した分散配列を電子顕微鏡で観察したところ、ナノフィブリルが1軸に配向している様子が確認された。この配向したドメインの多くは100μm以上の大きなサイズを有しており、配向軸がドメイン間で異なることから、分散液の対流により形成した配列と考えられる。さらに、ナノフィブリル分散液をキャスト乾燥して得られるフィルム中には、多方位に1軸配向した層状ドメインが積層した合板(plywood)状の構造が確認された。つまり、TEMPO触媒酸化により水中分散したセルロースナノフィブリルから、1軸配向したドメインが積層した階層構造(ポリドメインを有するネマチック液晶状)の形成に成功した。この知見を基に、高密度の表面カルボキシル基や細密化した空隙構造等を更なる材料・機能展開で活用することにより、自己組織化した階層構造を有する先端バイオベース材料の開発が期待される。
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