樹木タンニン類は酸化の過程において反応性が高まり、様々な物質と化学反応を起こすことが示唆されており、樹木タンニン類の有する様々な特性や機能に関係していると考えられる。本研究は、樹木タンニン類の酸化が関与する反応特性を明らかにすること、具体的にはタンニンの酸素酸化による変性と、それに引き続いて起こるアミン類等の求核試薬との反応特性の解明を目的とした。 タンニン二量体とn-プロピルアミン(PrAm)との反応挙動を検討した。B環がピロガロール核の二量体(プロデルフィニジンB2)では、空気雰囲気下でのPrAmとの反応により、4'-プロピルアミノエピガロカテキンの生成が示唆されたことから、ピロガロール核での酸素酸化が関与するアミノ化反応が示唆された。一方、B環がカテコール核の二量体(プロシアニジンB2)では、アミノ化反応は確認されず、2位異性化反応及び構成単位間結合の開裂が、酸化とは関係ないアルカリ反応により起きることを明らかにした。 樹木から抽出したタンニン類とPrAmとの反応挙動を検討した。ピロガロール核を多く有するアカシアタンニンの反応生成物をNMR及びIRで分析した結果、空気雰囲気下での生成物においてピロガロール核4'及び5'位へのアミノ化反応が起きていることが示され、アルゴン雰囲気下ではアミノ化反応が抑制されることを明らかにした。一方、カテコール核を多く有するケブラコタンニンの反応生成物では、空気雰囲気下で僅かにプロピルアミノ基の導入が示唆されたが、アカシアタンニンと比較してアミノ化反応は顕著でないことを明らかにした。PrAmとの反応によるタンニンの平均分子量変化について検討を行った結果、アミノ化反応が確認されたアカシアタンニンの反応生成物で分子量の増加が認められた。以上の結果から、樹木タンニン類においてもタンニン単量体・二量体と同様に、ピロガロール核において酸素酸化が関与するアミノ化反応が起きることを明らかにした。
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