伝統的木造住宅の耐震性能はこれまでに多くの研究によって検討されているが、応力の伝達機構や、大変形域での破壊過程の複雑さがあり、未だ明らかになっていないことが多い。また近年の地震による被害例が多いのも確かで、その構造性能の工学的評価は十分に検討されていないのが現状である。本研究では、研究代表者が開発した倒壊解析プログラムに、伝統的構法特有の耐力発現機構、破壊過程のモデル化を新たに加えることで、伝統的木造住宅の大変形挙動を含めた耐震性評価手法の開発を行うものである。平成23年度の成果を以下に示す。(1)伝統的構法特有の耐力発現機構、破壊過程を考慮した解析プログラムの開発:下屋から2階に小屋組が連続する構造体のモデル化、水平構面の耐力が極端に低く、水平構面が大変形・破壊する構造体のモデル化、貫が柱を貫通して、モーメント抵抗要素として作用する接合部のモデル化を行い、解析プログラムの改良を行った。解析結果を室内からの映像によっても確認できるようにインターフェースの改良を行った。(2)接合部、部材の強度実験データ収集:貫が柱を貫通してモーメント抵抗として作用する接合部のモーメント回転角関係を計算式によって確認した。(3)建物全体の地震時応答シミュレーションの実施、震動台実験との比較:昨年度は、平成23年1月に実施された震動台実験の結果を用いて、本解析モデルの精度検証を行ったが、本年度はその解析モデルを用いて、柱脚の滑りの許容量や、上部構造の層間変形角の限界値の検討のためのパラメトリック・スタディを行った。伝統的木造住宅の設計法構築に向けた検討が、本解析モデルによって行えることを確認した。(4)その他:本年度は最終年度であるが、3カ年を通して、伝統的構法特有の柱脚の滑り挙動、水平構面が柔床として変形する構造体、接合部のモーメント抵抗機構については本解析手法で倒壊まで追跡可能であることが分かった。
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