研究概要 |
北部北太平洋41~47°N, 165°Eの4定点、41~50°N, 165°Wの8定点およびベーリング海の1定点の計13定点において日周鉛直移動性カイアシ類Metridia pacificaによる物質輸送量を見積もった。本種雌成体はいずれの定点でも昼間は水深50m以深に分布し、夜間にのみ水深50m以浅に分布していた。昼夜の出現個体数の差から、27~5422inds.m^<-2>の雌成体が夜間に上層に移動していることが分かった。M.pacifica雌成体による上層での摂餌量は0.05~14.8mgCm^<-2>d^<-1>と推定され、下層での呼吸量は0.02~8.57mgCm^<-2>d^<-1>と推定された。M.pacificaの日周鉛直移動による能動輸送量は地理的に出現個体数の多かった定点(>50°N)にて高かった。これは1個体あたりの呼吸量や摂餌量では定点間の差は2.4倍程度でしかないが、出現個体数では200倍もの差があることの反映であった。いま仮に該当海域で既報の6月~8月の一次生産量227mgCm^<-2>d^<-1>があると仮定すると、M.pacifica雌成体による摂餌量はこの0.02~6.5%に相当する。またf-ratioを0.4と仮定すると有光層以深への沈降粒子フラックス量は91mgCm^<-2>d^<-1>である。M.pacifica雌成体による下層での呼吸量はこの0.02~9.4%に相当している。今回能動輸送量を推定したのは日周鉛直移動性動物プランクトン単一種の雌成体のみであったが、実際には他の動物プランクトンや、より大型なマイクロネクトン類によるものも加わるので、熱帯・亜熱帯域だけではなく亜寒帯域の物質循環においても能動輸送量の重要性が示唆された。
|