研究概要 |
大型船舶の船体安定のため空荷時積荷の代わりに積載される「バラスト水」は,多種多様な生物のグローバルレベルでの越境移動の原因として問題視されている。そのため,International Maritime Organization(国際海事機関:IMO)では,「船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約」を,2004年に採択している。しかしながら,バラスト処理技術開発の難航が原因の一つとなり,この条約の発効のめどは未だたっていない。本研究においては、低コストで環境負荷が少ない新たなバラスト処理技術の開発を目的として,貝殻由来成分を用いた凝集沈殿法による有毒・有害生物の除去の有用性を検証した。本年度においては,まず顕微鏡ならびに分子生物学的手法の一つであるイブラリー法にて,バラスト水中に含まれる生物を網羅的に同定した。その結果,日本から中東に航行する船舶のバラスト水ならびにバラスト沈殿物中には,赤潮原因種Heterosigma akashiwoや貝毒原因種Alexandrium tamarense等の有害有毒藻類が複数種含まれていた。とりわけバラスト沈殿物中には,有効な手段として用いられているバラスト洋上交換後にも多数の有害有毒藻類が存在した。そこで,新規に開発した貝殻由来成分による沈澱法を用いて,これらの生物の除去を試みた。その結果,凝集沈澱法により,多くの微細藻類の沈澱ならびに除去が可能である事が明らかとなった。これらの結果から,沈澱剤を用いた最適プロトコールを確立することにより,沈澱剤のバラスト水への応用が期待された。
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