1.浮遊期を終えた仔稚魚のサンゴ礁への加入は主に夜間に行われるため、着底場選択には嗅覚が重要な役割を果たしていると考えられている。本研究では、仔稚魚が加入の際に生サンゴが優占するサンゴ礁(以下、健全サンゴ礁)と死サンゴが優占するサンゴ礁を嗅覚で識別しているのかどうかを水槽実験によって調べた。両タイプのサンゴ礁の外縁部および沖合1kmと2kmの海水をそれぞれ採取し、各海水に対する仔稚魚の選好性を水槽内で調べた。魚類8種に対して調べたところ、4種において健全サンゴ礁周辺の海水を好む種が確認された。また、これらの種はサンゴ礁外縁部と沖合1kmの海水に対して顕著な反応を示していたことから、嗅覚による着底場認識は健全サンゴ礁の外縁部から1kmの範囲内で起きていることが示唆された。本研究によって、成育場への資源加入には健全な成育場から発せられる化学物質の存在が重要であることが明らかになった。したがって、サンゴ礁の健全性の確保は、仔稚魚のサンゴ礁への加入を継続させていく上で不可欠であると考えられた。 2.成育場の劣化が稚魚の分布と成長に与える影響を明らかにするために、赤土流出によって劣化した海草藻場と赤土の影響を全く受けない健全な海草藻場において、海草藻場を稚魚成育場として利用するマトフエフキ稚魚の分布、食性、成長量の違いを調べた。両藻場で食性には違いが認められなかったものの、サイズ分布には違いが認められ、劣化した海草藻場には小型個体しか出現しなかったのに対して、健全藻場には小型個体だけでなく大型個体も出現した。耳石日周輪分析によって両藻場における稚魚の成長量を比較したところ、大きな違いは認められなかった。したがって、藻場の劣化は稚魚期初期の成長には大きな影響を与えないものの、大型の個体にとっては好適な成育場でなくなることが示唆された。
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