研究課題
干潟にはそこに生息する生物が海域で生産された水柱の有機物を除去することによる水質浄化機能があるとされる。一方、干潟では底性微細藻類が一次生産者として干潟生態系を支えており、その生産物が隣接海域へ流出し、そこでの生産性にも寄与するという、エネルギー供給機能もありうる。しかしこの機能はあまり注目されてこなかった。また、そうした機能が干潟生態系の季節性により変動する可能性があることに着目した研究例も皆無であった。本研究は有明海軟泥干潟とその浅海域をモデルとしてとらえ、安定同位体を用いてこのことを検証することが主要な目的である。今年度は夏期、秋期、冬期の3シーズンで干潟域と浅海域を横断する測線でベントス、底泥、水柱の懸濁物(POM)を採取し、そのうち夏期、秋期のサンプルの同位体分析を行った。結果、夏期のPOMの炭素同位体比は-20.4±0.17‰(mean±SD)であり、底性微細藻類の代表として干潟で採取した表層泥の炭素同位体比は-20.0±0.15‰でPOMと区別できなかった。主要な濾過食ベントスの炭素同位体比は-17~-18‰であった。表層泥の炭素同位体比では正確な底性藻類の同位体比を反映していない可能性があったため、秋期には干潟で底性藻類を摂餌していると思われるタマキビ類の同位体比から推定を試みた。秋期のPOMの炭素同位体比は-22.3±0.12‰であり、タマキビ類から推定した底性微細藻類の炭素同位体比は-16.1士0.56‰となった。秋期の濾過食ベントスの同位体比は-16.7~-17.8‰であり、底性藻類の寄与がきわめて高いことがわかった。10月時点での干潟上でのグレーザーの活動は以前高く、季節に関係なく、干潟のエネルギー供給機能は高いのかもしれない。今後は冬期、春期の調査、分析も行い、定量的な寄与率の推定を進める予定である。
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Plankton, Benthos Research 5(印刷中)