干潟の生態系機能は主に水柱からの有機物除去という水質浄化機能がクローズアップされる。しかし近年は底性微細藻類の流出を介して隣接する浅海域の生産性にも寄与している可能性も指摘されている。本研究では有明海湾奥部に広がる軟泥干潟において、浅海域の生産性に対する有機物の供給機能について安定同位体を用いて評価し、また干潟で底性微細藻類を摂食するグレーザーの活動の季節性から浄化機能と供給機能の季節変化について評価することを主要な目的としている。前年度の研究結果より、表層底泥では底性微細藻類の同位体比を代表できず、引用値でも夏期のPOMの同位体比と値が変わらないことができないことが判明したため、今年度は干潟で実際に微細藻類を摂食しているグレーザーの同位体比から底性微細藻類の同位体比を推定し、その値を用いて他のベントスに対する底性藻類の寄与率の推定とその季節変化の評価を行った。その結果、底性微細藻類の寄与は夏期において堆積物食ベントスでは沖合域でも平均60%、濾過食ベントスでは沖合域で44%であった。冬期では堆積物食者は沖合域でも76%、濾過食者の場合、種による変異がみられたが平均して62%で夏期よりも寄与は高かった。一方魚類は冬期でも夏期でも底性微細藻類の寄与が70%以上であった。以上より生態系機能に季節変化はみられるものの有機物の供給機能と浄化機能が入れ替わるほどのものではなく、どちらかといえば軟泥干潟はどの季節でも有機物の供給源としての機能が卓越していると考えられる。
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