本研究の目的はゼブラフィッシュ孵化仔魚の食欲調節システムの分子機構、ならびに発生に伴う食欲調節システムの発達を光環境応答-食欲調節分子に着目して明らかにすることである。当該年度に実施した研究によって以下の成果を得た。(A)孵化仔魚の摂餌量定量系を開発した。当該年度に購入した顕微鏡カメラを使用し、遊泳するゾウリムシを連続撮影・解析することによってゾウリムシ個体数を簡便に計数し、ゼブラフィッシュの摂餌量を算出することを可能とした。(B)メラニン凝集ホルモン(MCH)は哺乳類および硬骨魚類に共通する食欲調節ホルモンであることが示唆されている。MCH前駆体の1型サブタイプ(MCH1)と4つのMCH受容体のcDNAをクローニングして全長塩基配列を決定した。これらの遺伝子の成魚における発現組織を調べた結果、全てが脳において発現することが確認された。一方、MCH受容体のサブタイプのうち3種類は皮膚においても発現するが、残り1種類は皮膚において発現しないことが示唆された。この受容体はMCHの主要なホルモン作用である皮膚の色素凝集反応に関与せず、それとは異なる何らかの、おそらく脳における機能に関わることが示唆された。そこで細胞内シグナル伝達機能の解析を目的として、この受容体の発現コンストラクトを作成した。(C)仔魚におけるMCH1遺伝子の発現に背地応答がおよぼす効果を検討した。受精後から摂餌を開始する5日目まで遮光条件あるいは明暗条件において飼育し、胚のMCH1遺伝子発現量を逆転写PCR法によって半定量的に調べた。その結果、両光条件による有意な差は見られなかった。さらに受精後5日目まで底面が白または黒いプレート中で飼育した胚のMCH1遺伝子発現量を調べたところ、底面が白いプレートのほうが高くなる傾向が見られた。この結果から、摂餌開始時期の胚において背地応答によるMCH1遺伝子の転写調節が可能であることが示唆された。
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