研究概要 |
ゼブラフィッシュ孵化仔魚の食欲調節システムの分子機構、ならびに発生に伴う食欲の光環境応答を明かにするため、まず孵化仔魚の摂食活性の定量法の確立を目指した。当初計画ではゾウリムシを餌としたときのゼブラフィッシュの摂食量を調べようとしたが、定量が困難であったため、餌生物をゾウリムシからアルテミアに変更した。アルテミアはゾウリムシより大きいので、ゼブラフィッシュは受精後10日目以降にならないとアルテミアを食べられない。そこで、受精後10日目まで生残した仔魚に対してゼブラフィッシュの視物質の吸収極大波長に近い単色光(極大波長590,533,476,410,355 nm)を照射し、仔魚が摂食したアルテミア個体数を調べた。その結果、波長光が短い群から順に高い平均摂食量を示した。また、それぞれの波長光群(n=6個体)の平均摂食量の大小は実験終了時の平均体サイズの大小をほぼ反映していた。この結果は仔魚において特定の光波長が摂食行動と成長に影響することを初めて示したものであり、特定の波長光下が脳内食欲調節ホルモンに及ぼす影響を調べる重要性が示唆された。本研究では照射光の明暗に応答する食欲調節ホルモンの代表としてメラニン凝集ホルモン(MCH)に着目していた。しかし、特定の波長光の効果が明らかとなった今、MCHが単独でこの現象に関与しているとは考えがたい。今年度はMCH遺伝子ならびにMCH受容体遺伝子の発現マーカー導入魚の作成を目指していたが、2011年3月11日の東日本大震災によって研究施設が被災した結果、残念ながらすべての実験魚が失われた。しかし、今後、特定波長光下で成長した仔魚の脳における遺伝子の網羅的解析を行うことによって、所定の目的を達することができると考えられる。
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