本研究の目的は、複数のホッカイエビ個体群を対象として漁獲に起因した非適応進化を証明し、本種の資源減少との関係を明確にすることであった。本年度は最終年度として、野外データ解析に関しては、これまでに収集し解析した結果の取りまとめを行った。本年度は性転換年齢・サイズにおける可塑性を明確にすることができた。性転換年齢・サイズはまず繁殖期までの成長量(体サイズ)によって変化していたが、同時に個体群内の体サイズの構成比(実質的な性比)に応じても変化していた。後者の可塑的応答を起因しているのは非意図的に雌に偏った選択的漁法であり、本種は漁獲による雌不足を補正する形で性転換すると言えた。しかしながら、この性比補正は補正後に漁業を行わない場合は適応的であるが、本種は補正後の漁獲圧を予想できるわけではないため、事実上、その補正は無意味あるいは非適応的である。28年間に及ぶ野外調査データを用いて年齢ごとの本種の50%性転換確率を調べたところ、成長量の年変動を考慮してもなお徐々に小型化しており、これは本種の性転換サイズの遺伝的小型化を強く示唆するもであった。したがって、野外データ解析の結果からは、本種の性転換年齢・サイズは可塑的に変化するものの漁業条件下では非適応的であり、その結果、遺伝的な小型化が進行していると考えられた。飼育観察では、漁獲圧が高い個体群ほど生存率が顕著に悪かった。しかし漁獲圧の高い個体群での死亡率が想定を超えて高く、小型化や早熟化を比較し、差を検出するだけの十分な標本数を得られなかった。したがって、飼育観察の結果からは、十分な解析を実施するには至らなかったものの、適応度成分としてもっとも重要な生存率の低下からは、漁獲圧に応じた非適応化とそれに起因した本種の資源減少との関係が推察された。
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