本研究では、卵胎生魚であるグッピーPoecilia reticulata(雌)から無菌解剖により稚魚を採取することにより、無菌環境下で100日以上飼育する事に成功した。無菌魚の作出例はこれまでもゼブラフィッシュで報告されていたが、その最大飼育可能期間は20日間程度である。平成23年度では上述手法に更に改良を加え、1親魚から10尾以上の稚魚を無菌環壇で飼育することに成功した。平成23年度の主な実績は下記の通りである。 昨年度までの手法では、無菌率は8割を超えていたものの、無菌を維持した状態で得られる稚魚数が数尾程度/親魚と少なく、複数のサンプリングや実験を実施できない問題があった。そこで親魚から採取した稚魚を消毒する抗生物質溶液に改変した淡水魚用平衡生理食塩水を使用したところ、無菌成功率は約90%(撹拌培養[4種類の液体培地〕およびPCR[16SrDNAユニバーサルプライマー]陰性)、10~15尾/親魚の稚魚を得る事が可能となった。本手法で得た稚魚に親魚水槽の飼育水を定期的に加え有菌化したものを対照魚として、無菌環境が成長に及ぼす影響を比較した結果、昨年度までと同様に無菌環境では魚体の成長が早く、飼育開始2週間後には有意な差(p<0.05)が認められた。また同時期に複数の魚体を採取して常法に従いパラフィン切片を作製して観察したところ、腎臓や消化管の粘膜固有層にみられる白血球系細胞が著しく少ないなどの特徴が確認された。これらの結果は、微生物が魚類(特に稚魚期)の成長を含む生理代謝や生体防御能に強い影響を及ぼしていることを示唆するものであり、本申請研究により確立された手法は微生物と魚類の関係を探る上で有効性の高いツールになるものと期待される。
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