研究概要 |
高速遊泳や水深数百メートルに及ぶ潜水が可能となるよう特化したクロマグロは,太平洋を横断回遊するといった高い適応能力を持つ一方で,狭い空間内では生残・飼育が困難であるという適応特化の極端な両面を併せ持っている。このクロマグロは近年その資源量の減少が世界的に重大な問題となっており,資源の回復と維持のための方策の実施が急務となっている。そのため,種苗生産から沖合域での浮沈式大型生簀による飼育に至るまでの完全養殖技術の確立が望まれている。これらの実現には,特化の著しい本種の行動特性の把握に留まらず,環境刺激によって本種がどのような行動を発現するのかを明らかにしなければならない。本研究ではクロマグロの刺激受容特性を生理学的,反応行動を行動学的に調べ,刺激反応行動の数理モデルを構築することで統合化し,外的刺激により対象魚がどのような反応行動を創発するのか,その行動誘発機構の解明を目的として研究を実施している。本年度は沖合養殖生簀で養成されている全長60cmから130cmにおよぶ孵化後半年から一年半後の養成クロマグロを対象として実験を行った。行動モニタリングでは,ステレオカメラを用いた光学的手法による名個体の3次元位置座標の時系列モニタリングを中心として,バイオテレメトリー手法を用いた計測を併せて実施し,生簀内の様々な環境に遭遇したときのクロマグロの行動を記録した。これから,当該魚の行動特性として3次元的な空間の利用特性および複数個体間の行動の相互作用・同調性を求めた。同時に生簀の環境モニタリングにより,照度・水温・溶存酸素量・流速および生簀網地の吹かれを測定した。さらに,引き続き実施しているクロマグロの視認能力および刺激受容の特性に関する研究の結果を併せて,総合的にこれらの結果を解析するために,数理行動モデルによる統合解析を実施する段階に至っている。
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