研究概要 |
紅藻スサビノリ葉状体の色落ちおよび色落ち回復条件を明らかにするために,室内培養試験を行った.栄養補強海水培地を用いて水温10℃,短日条件(明期10時間,暗期14時間)で培養した葉状体を天然海水培地に移し,培地交換を行わずに培養を継続して葉状体の色落ちを誘導した.24時間毎に葉状体色を分光測色計で測定したところ,色落ち誘導2日目で葉状体色の退色が始まり,その後は経過時間に伴って退色の進むことが明らかとなった.そこで,色落ち誘導した葉状体を種々の無機態窒素源(硝酸ナトリウム,塩化アンモニウム,硝酸アンモニウム,硫酸アンモニウム)または有機態窒素源(尿素,ヒドロキシ尿素,アラニン,アルギニン,グルタミン酸,グリシン,ヒスチジン,プロリン,タウリン)で栄養補強した海水培地に移して培養し,各種窒素源による色落ち回復効果を分光測色計で評価した.その結果,硫酸アンモニウムによる色回復効果が特に優れていること,さらに尿素の色回復効果が硫酸アンモニウムと同等であることが明らかとなった. 次に,紅藻スサビノリ葉状体の尿素トランスポーター(PyUT1およびPyUT2)をコードするcDNAの塩基配列情報を基に,各遺伝子発現を特異的に検出・定量可能なリアルタイムPCR用プローブ・プライマーセットを作製した.色落ち誘導した葉状体を24時間毎に回収し,PyUT1およびPyUT2遺伝子発現をリアルタイムPCRにより調べたところ,両トランスポーター遺伝子発現は色落ち誘導1~2日目で著しく誘導され,3日目以降でも高レベルで維持されていることが明らかとなった.さらに,色落ち葉状体に各種窒素源による色落ち回復を行い,PyUT1およびPyUT2遺伝子の発現応答性を調べたところ,無機態窒素源または有機態窒素原のうち尿素とグリシンを添加した場合に,両遺伝子発現が大きく抑制される傾向が認められた.したがって,スサビノリ葉状体はPyUT1およびPyUT2遺伝子を高発現して貧栄養環境に対応していること,両遺伝子は無機態窒素源および一部の有機態窒素源の取込み・同化やその調節に重要な役割を果たしていることが考えられた.
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