本研究は、近年多発する食をめぐる事件について、食品関連企業の株価変動からの分析を試みるものである。2009年度においては、2000年6月に発生した加工乳の集団食中毒事件と2002年1月に発覚した食肉に関する不当な原産国表示事件(牛肉偽装事件)である。これらの事件に関しては、食中毒事件は業務上過失傷害および食品衛生法違反として、牛肉偽装事件は詐欺罪として、関係者の法的処分がそれぞれ確定している。いずれの事件も食品関連企業の法律違反(コンプライアンス違反)となる事案だが、その内容は過失と故意というように大きく性質が異なる。 上記二事件に関係した大手乳業メーカーと同業他社二社、計三社の日別株価収益率を、時系列分析の代表的モデルの一つである動的条件付相関係数型GARCHモデルによって分析したところ、以下の三点が明らかとなった。 第一に、食中毒事件では相関関係は直ちに変化しなかったのに対して、牛肉偽装事件においては事件発覚と同時に相関関係は大きく変動していた。第二に、食中毒事件が発生した際には、事件の第一報よりも、他製品への拡大が明らかになった時点において相関関係に大きな変動が見られた。第三に、いずれの事件においても、相関関係の変化は短期的なレベルシフトとして現れており、相関係数は長期的な水準に戻ろうとする動きのあることが明らかとなった。事件のショックから長期的な水準へ回復するまでに、4-5カ月の期間を要していた。 また、上記事件を含む最近の食に関する事件の事実関係の整理や、統計分析用ソフトの改良などをおこなった。
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