本年度は、大手乳業メーカーが関与した大規模食中毒事件と牛肉偽装事件を取り上げ、秒単位で記録された超高頻度株価データを用いた分析を中心に、研究を遂行した。 一般に、取引時間中の株価は、市場に到達する情報の内容に応じて上昇と下落を繰り返しながら変動している。また、食に関する事件情報は事前に予期できない場合が多く、株価が突発的かつ急激に変化するジャンプ状の反応を示すこともある。このような株価変動の態様を把握するためには、超高頻度データの利用が望ましい。本年度の研究では、特に、食に関する事件に際して生じた株価変動とジャンプを符号ごとに分離して推定し、株式市場がどのように反応したのかを明らかにすることを試みた。 分析の結果、上記2つの事件に際して、株式市場は株価のジャンプを伴う急激な反応をしばしば示していたことが分かった。ほとんどは下落方向のジャンプであったが、情報の内容によっては上昇方向のものも観測された。分析期間中では、牛肉偽装事件を受けて発表された再建計画が報道された時に生じたジャンプが最大であった。また、法令に違反する事件はもちろんのこと、法令違反とならず、かつ品質に問題がないような事例であっても、食品に対する信頼を損なう行為に対して、株式市場は株価のジャンプを生起させるほどの急激な反応を示していた。一方、公的機関による安全宣言や、経営陣交代による事件責任の明確化に対しては、株式市場は大きな反応を示さなかった。 したがって、食に関する事件の発生と回復に関する情報に対して、株式市場は非対称的な反応を示す傾向にあると判断される。このことは、一度失われた企業価値を回復する難しさを改めて示すものであるといえよう。 また、最終年度のため、これまでの研究総括と今後に向けた課題整理のため、在外の研究者によるレビューを受け、意見交換をおこなった。
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