研究概要 |
研究開発投資が過少となるとされるマイナークロップは,国際的には孤児作物と称され,公的研究機関による研究開発が期待されている.しかしながらその際,知的財産権に依拠する民間研究機関との連携が重要課題のひとつとなっており,知的財産権を巡る近年の動向を既存研究から以下の通り論点整理し,発刊した. おもな論点は, (1)知的財産権の強化とイノベーション促進に関する経済学的な実証研究について,理論的には権利強化によってイノベーションは促進されるとされるが,現段階ではその証左はなくさらなる実証研究の蓄積が必要である. (2)次に,先行発明と後続発明の権利範囲に関する議論があり,これは両者間の利益配分を決定することと同値で権利強化が開発意欲の減退を招く可能性が指摘されている. (3)生物多様性条約の重要課題のひとつともなっている利益配分の問題について,遺伝資源の主権国が過度に強化すれば,結果としてアンチコモンズの悲劇と称される技術の過少利用が生じることが指摘されている. (4)公的機関について,スピルオーバーの大きい作物や開発投資が過少とされる孤児作物について,今後もその役割が期待されるものの,開発過程で利用する技術に民間機関の特許が必要となる場合もあり,公的機関だからといって知的財産権が強化される近年の動向を無視して研究開発を進めることは難しい. 平成22年度は,以上4点について既存文献を参照しながらとりまとめ,著書の一章として刊行した.
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