研究概要 |
パーム油の主要生産国であるインドネシアを対象に,本年度は,市場の成熟化が関連する産業組織に与える影響について分析することを目的とした。本年度の分析から,北スマトラ州は歴史的にオイルパーム産業が早期から発展し,パーム油需要拡大にも早期に対応し,パレート効率的な市場が形成されていることが示唆される。一方,ジャンビ州はオイルパーム産業の開始が遅かったものの,市場構造はパーム油需要拡大に応じて急速に北スマトラ州に近づきつつある。両者を比較した市場の成熟化の影響について整理する。農家については,農家数が増加する一方,流通構造を踏まえると,自作農の増加および規模拡大により,より多くの搾油企業に販売する機会が得られるようになる。また,価格形成の透明性増大や情報の非対称性の緩和の結果,よりパレート効率的な市場が形成される。さらに,農家数に比して搾油能力が増大し,特に工場に直接販売可能な中規模,大規模農家の搾油企業に対する価格交渉力が増大する。これは前年度の分析結果と整合的であり,オイルパーム市場の成熟化は農家の経済厚生を増大させる。一方,搾油企業については,企業数が増加し,稼働率が低下,農家1人当たり搾油能力が増加する。その結果,搾油企業間の競争が激化し,農家や仲買人に対する価格交渉力が以前よりも低下する。また,厳しい競争環境に置かれた搾油企業の中には,オイルパーム確保のため仲買人と数量契約を結ぶものもあり,搾油企業にとって仲買人の重要性が増大する。一方,特に小規模農家にとっても搾油工場に直接販売することができない制度の存在により,仲買人は重要な役割を果たしている。市場が成熟化しても仲買人が小規模農家に対して価格交渉力を持つ構造は変わりにくく,販売契約をともなう融資や種々のサービスの提供を通じた農家には知り得ない超過利潤が存在するような場合,パレート改善の余地が残されることとなる。
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