持続可能な発展の必要条件として、長期的な水資源の保全は多くの途上国に共通する課題であり難題である。一部のアジア諸国ではすでに深刻な水不足が顕在化しているが、その多くが灌漑農業による河川・地下水の汲み上げに端を発している。中国北部ではもともと降雨量が少ないことに加え、黄河断流が大きな社会問題となったことなどにより、灌漑用水における河川水から地下水への移行が急速に進んでいる。しかし過剰な地下水汲み上げによる環境への負荷は大きく、地下水位の低下によりすでに数多くの湖沼が消失し、土壌の塩類集積による耕作放棄も増加の一途をたどっている。そこで本研究では、灌漑農業が黄河中上流域の水資源に与える影響を経済・水文モデルによる統合的な分析枠組により分析した。そこで本研究ではまず、MIKE SHE分布型水循環モデルを利用して対象地域の水循環プロセスのモデル化を実施した。構築されたモデルは1994-1995年の月別水量の観測値でキャリブレートし、1996-1997年の観測値を利用してモデルの妥当性を検証した。その結果、対象地域における河川水量・地下水涵養量を妥当な範囲で予測できることを確認した。次に構築されたモデルにより、灌漑農地の拡大や灌漑効率の変化が地域の水資源量に与える影響の分析をおこなった。その結果、灌漑面積の更なる拡大は対象地域の水資源に危機的な影響を与えかねない一方で、灌漑方式の変更などによる効率改善が問題の軽減に大きく寄与する可能性が定量的に示された。
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