研究概要 |
本研究の課題は,さまざまな問題を抱える集落コミュニティを対象として,ソーシャル・キャピタルの働きや役割を構造的に解明することである.そこで平成21年度では,消滅が危惧される小規模集落である限界集落を対象として,ソーシャル・キャピタルの源泉となる集落構成員間の人的繋がりの構造を定量的に把握することを目的とした.具体的には,9つの人的繋がりに関して,個々の集落構成員間の有無を調査し,社会ネットワーク分析の技法により,処理した.得られた主な知見は以下の通りである. (1)構成員が多いことと人的繋がりが活発であることに起因して人的繋がりの形成に対する高齢女性の寄与が極めて大きい.また,構成員が多くない中で人的繋がりが活発な壮年男性と若年者は,人的繋がりの形成に一定の貢献がみられる.(2)高齢女性,壮年男性,高齢男性は同一階層の構成員と繋がりをもつ傾向が強く,これらの階層内の結びつきが強いことが集落全体の人的繋がりの形成に寄与している.(3)地縁関係に基づいて人的繋がりが形成される程度が大きいが,親族関係は人的繋がりをより活発にし,その形成に正の影響を与えている.(4)集落組織及び友好関係に関する人的繋がりは,集落構成員間の距離が近く,まとまりがある.これは人的繋がりの構造が網目状であることを主因として保持されており頑健である.(5)用事と個人問題に関する人的繋がりは小規模かつ繋がりが密な世帯単位のいくつかのグループが分断または緩やかに接続した構造であり,集落全体での人的繋がりのまとまりはない.一方,災害に関する人的繋がりは,自治会長を要とした放射状構造であり,構成員間の距離が近く,まとまりがある.(6)いくつかの人的繋がりにおいて,世帯と集落,高齢女性と壮年・高齢男性を繋ぎ,まとまりを生み出す役割を果たす複数の集落構成員の存在が確認できる.
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