先行研究によれば、2007~08年の食料危機の原因のひとつとして、ASEAN諸国、NIEs(新興工業諸国)に加え、BRICs(新興経済4カ国)、NEXT11(新興経済発展国家群:イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコ)等の経済発展・所得増大に伴う食料消費水準の高度化による穀物の需要増加が挙げられている。 しかし、この両年の食料危機における世界のトウモロコシの輸入需要増加(過去7年間平均比24%増、翌年同15%増)に関して、EU諸国の影響が大きかった点、新興国の中でもスペイン語圏諸国等(スペイン・メキシコ・ポルトガル)の影響が強かった点、新興国以外で着目すべき南米諸国は、コロンビア・チリ・ペルー・ベネズエラであった点を認識しておくことが重要である。ゆえにASEAN、NIEs、NEXT11の新興諸国が、食料危機下で一様にトウモロコシの輸入需要を増加させたわけではない。 トウモロコシの輸出面をみると、2008年の中国の輸出規制によって、主な中国の輸出先である韓国は米国からの輸入を前年比72%で急増させたが、NAFTAのもと米国からメキシコへも輸出が増加したため、北アフリカ諸国への輸出が前年比約50%で減少した。暴動が起きた同地域への影響が窺える。 世界の小麦の輸入需要増加に関しては、トウモロコシほどに伸びたわけではない(同9%増、翌年同8%増)が、NEXT11が両年において50%、67%で輸入増加に寄与した。しかし小麦の場合、トウモロコシのように、食料危機の短期間に地域統合や共通言語を通じたグループ諸国が同調して輸入を増加させている状況は観察できない。ただし中長期的には、例えば米国の小麦輸出は中南米諸国を中心に伸びている。今後、日本農業経済学会や日本フードシステム学会等で発表及び投稿の予定である。
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