農業法人における財務悪化の判断基準として、経営類型別の財務指標の標準値と、良・不良を評価するためのランク区分の策定を行った。分析の素材は、日本政策金融公庫が保有する農業法人の財務データであり、対象とした部門は、稲作、露地野菜、施設野菜、果樹、酪農、肉用牛の6部門である。財務指標は、収益性、効率性、財務安全性、生産性等の各指標特性の中から総資本経常利益率や自己資本比率等の代表的なものを選定した。分析の結果、例えば稲作では、自己資本比率の標準値は11.0%であり、標準ランクが5.8~16.5%、やや不良は△15.6~5.8%、やや良好は16.5~37.8%となった。 次に、北海道の大規模露地野菜作経営を事例として、経営展開に沿った財務悪化の要因を解析した。ここでは、自己資本比率が著しく低下し負値を示す状態を財務不良ととらえ、この財務不良に至る過程を財務悪化と規定した。当該事例では、これまでに、次の2つのパターンの財務悪化が確認できた。一つは、1992年や1997年における短期間での急激な悪化である。その要因としては、多額の投資を実施したことにともなって返済資金額が増加したが、期待した売上増加等の効果が生じず結果として過剰投資となったこと、さらに経営外部要因としては0-157による食中毒事件の発生などにより市場価格が著しく低落したことが挙げられる。他方、2001年から自己資本比率は低下傾向を続け2005年に再び負値に至っており、これは中長期間における緩慢的な悪化といえる。ここでの悪化の要因としては、償却が済んだ上述の投資資産を有効活用するためには施設管理や販路開拓に向けた人材確保が不可欠であったが、経営者はこの問題を認識しつつも具体的な対策を講じることができず、結果として同期間中に営業損失が続いたこと、いわばヒューマンエラーとも呼べる点が挙げられる。
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