本研究では、作物の栄養素吸収と水吸収の相互作用を定量的に評価するとともに、そのメカニズム解明を目指して研究を行う。研究初年度である当該年度は、主として実験系の確立を目指して実験を行った。 1. 水耕液の窒素濃度を変化させた場合の吸水量の変化について検討を行った。材料にはイネ(あきたこまち)を用い、窒素10ppm(窒素源は硝酸アンモニウム)の条件で2週間程度育てた後、水耕液の窒素濃度を0.5ppmに低下させ窒素飢餓条件にしたところ、処理開始後数時間では変化がなかったが24時間後には根の単位表面積当たりの溢泌液量(水透過性の指標)が約30%、48時間後には約50%まで低下した。その後、窒素濃度を10ppmに戻したところ、溢泌液量は対照区(窒素10ppmのまま栽培)の約85%まで回復した。また、窒素源として硝酸あるいはアンモニアのどちらが影響するのかを調べる目的で、窒素10ppm(硝酸アンモニウム)で2週間程度育てた後、同じ10ppm窒素濃度だが硝酸のみあるいはアンモニアのみ窒素源とした水耕液に変えたところ、窒素源を急激に変化させたショックのためかいずれの処理区でも処理24時間で溢泌液量が低下したが、48時間後には回復が見られた。以上の結果から、相互作用の解析に適する処理条件として、上記の「窒素10ppm→0.5ppm 2日間→10ppmに回復」で問題がないこと、また窒素源の種類ではなく窒素濃度の総和が根の水透過性に影響を及ぼすことが明らかとなった。 2. 吸水量を制限した場合の窒素吸収量の変化について検討を開始した。15Nを用いた窒素吸収量の解析までは着手できなかったが、窒素吸収に深く関わる窒素輸送体遺伝子各種の発現量について解析する手法を確立し、水耕液にマンニトールを添加して吸水阻害を引き起こした場合の発現量の変化を解析した。0.2~0.3MPaの吸水阻害処理では、根の硝酸輸送体遺伝子数種類の発現量がやや増加したが、アンモニア輸送体にはほとんど変化がなかった。また、1~1.5MPaの激しい吸水阻害処理では、ほとんどの窒素輸送体遺伝子発現量が低下した。
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