研究課題/領域番号 |
21780235
|
研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
櫻井 淳子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター・生産基盤研究領域, 主任研究員 (40343959)
|
キーワード | 栄養素吸収 / 吸水 / イネ / アクアポリン |
研究概要 |
本研究では作物の栄養素吸収と水吸収の相互作用を定量的に評価するとともに、そのメカニズム解明を目指して研究を行う。当該年度は次の(1)、(2)の2つの角度から研究を行った。 (1)栄養素条件の変動が吸水量に与える影響 昨年度までの結果から、水耕液の窒素濃度を低下させるとイネの根の水透過性が低下するが、その後、窒素濃度を回復させると水透過性も回復することが明らかとなった。この過程におけるアクアポリン(水の吸収に関わる膜タンパク質)の役割を明らかにするため、同じ実験系を用いてアクアポリン遺伝子発現量の変動をリアルタイムPCR法で解析した。本年度は窒素飢餓時における変動を解析した。根で特異的に発現し環境ストレスに対する応答が鋭敏であるアクアポリンOsPIP2:5の遺伝子発現量は、窒素飢餓処理24時間後に約40%,48時間後に約50%低下し、これは根の水透過性の変化とほぼ一致した。したがって、このアクアポリン発現量の変動が根の水透過性の変動と密接に関連していると考えられる。また同じ実験系における根の形態変化についても解析したところ、窒素飢餓により根の表面積が増加するとともに、根の乾物割合(幼苗の乾物重全体に占める根の乾物割合)や比乾物重(根の単位表面積当たりの乾物重)も増加することが明らかとなった。これは窒素飢餓処理による根の水透過性の低下を回避するためのイネの形態的な適応と考えられる。 (2)水ストレス条件の変動が栄養素の吸収に与える影響 水耕液にマンニトールを添加して-0.2MPaの浸透圧ストレスを与え吸水を阻害した際の栄養素吸収の変動を系時的に解析した。水耕液中の窒素成分の減少量をイオンクロマトグラフ法にて測定したところ、硝酸イオン、アンモニウムイオンの減少パターンはマンニトールを添加しない対照区とほとんど変わらなかった。したがって、-0.2MPaの比較的ゆるやかな水ストレスでは窒素吸収には影響を与えないことが示唆されたが、実際に-0.2MPaの浸透圧処理でどの程度の水透過性が低下しているのか、またさらに厳しい水ストレスが栄養素吸収に与える影響について検討を進める必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は3年間の研究における2年目に相当する。交付申請書では、2年目以降の研究の目的として「1年目で確立した窒素処理条件を用いて吸水量やアクアポリン発現量の系時的変化を明らかにする」としているが、ほぼ達成することができた。また、もうひとつの目的である「水ストレス処理を行ってからの窒素吸収量の系時的変化を明らかにする」についても、ほぼ達成できた。
|
今後の研究の推進方策 |
当初予定通り、窒素条件を変えた際のアクアポリン遺伝子発現量の変動や、水ストレス処理を行ってからの窒素吸収量や窒素輸送体遺伝子発現量の系時的変化について、データを精査する。これらの結果をもとに作物の栄養素吸収と水吸収の相互作用についての定量化とメカニズム解明を進める。また窒素濃度処理による根の水透過性の変化については、これまでのデータを取りまとめ論文化を進める。
|