本研究は(1)栄養素条件の変動が吸水量に与える影響、(2)水ストレス条件の変動が栄養素の吸収に与える影響、とちう2つの小課題から構成されている。本年度は研究最終年度であり、栄養素吸収と水吸収の相互作用の全体像を明らかにするため、両小課題についてそれぞれ下記のような研究を行い結果を得た。 (1)栄養素条件の変動が吸水量に与える影響 昨年度までの結果から、窒素飢餓時における根の水透過性の低下はアクアポリン遺伝子発現量の低下と密接に関わっている可能性が示唆された。一方、窒素飢餓後の窒素回復処理時は根の水透過性を回復させるが、本年度はこの過程におけるアクアポリン遺伝子発現量の変動を解析した。根で特異的に発現し、環境ストレスに対する応答が鋭敏であるアクアポリンOsPIP2;5の遺伝子発現量は、窒素回復処理20時間後から回復し始め、処理26時間後には無処理区と同程度にまで回復した。このことから、アクアポリン遺伝子発現量の回復は根の水透過性の回復と密接に関わっていることが示唆された。また同じ実験系における根の形態変化についても解析したところ、窒素飢餓による根表面積や根の乾物割合の著しい増加は、窒素回復処理で抑制されることが明らかとなった。 (2)水ストレス条件の変動が栄養素の吸収に与える影響 昨年度までの結果から、-0.2MPaのゆるやかな水ストレスは窒素吸収量にほとんど影響しないことが明らかとなったが、今年度はこの過程における窒素輸送体遺伝子発現量の時系列変化を解析した。処理開始4時間後に一過的にアンモニア輸送体及び硝酸輸送体遺伝子発現量が低下したものの、24時間後までに大きな変化は見られなかった。一方、-1.0MPaの激しい水ストレスを与えた場合には、処理1日後のアンモニア及び硝酸吸収量はそれぞれ約70%及び60%低下した。
|