研究概要 |
林業の低迷により樹木の伐採後に造林されない再造林放棄地が増加している。再造林放棄地では,ササ類が繁茂しやすく地表の光量不足が起こるため稚樹が育たず,天然の森林更新が起きない。このため森林の水土保全機能や生物多様性が低下しやすく,解決が求められている。申請者は,再造林放棄地に繁殖用和牛を放牧することでササを除去し,同時に牛の低コスト飼養を可能にする管理方法の確立を試みている。ササを牛に効率良く利用させるためには,ササに対する採食を制御する要因を明らかにする必要がある。反芻動物では摂取飼料の反芻胃内消化動態が,採食量や採餌行動を制御する。 そこで,本課題ではササの反芻胃内における消化動態が反芻動物の採食量や採餌行動に影響を及ぼしているかを明らかにしようとした。試験には牛のモデル動物として反芻胃カニューレを装着したヒツジ4頭を供試した。まず,個別ペンにてクマイザサおよびイネ科牧草を飽食給与して実験を行ったが,刈取ったササを採食しない個体がおり,データが採取できなかった。このため,ヒツジ3頭(平均体重47kg)を直接ササ地に22日間放牧し,日内の反芻胃内容物の重量変化,飼料片粒度分布,採食行動および反芻の継続時間を測定した。ヒツジの乾物採食量は体重のおよそ3%だった。総採食時間は498分/日,総反芻時間は401分/日,採食期数は9回/日であり,反芻は夜間に集中した。反芻胃内容物の乾物重量は,20時に最大のピークを持ち,反芻胃内から流下できない1.18mm以上の大飼料片プールサイズは日中は増加しつづけた。この反芻胃内容物の動態は,これまでに報告されているイネ科牧草のものとは異なっていた。 本実験ではササの採食量の明確な低下は認められなかったが,ササの反芻胃内動態はイネ科牧草とは異なることが示唆され,採食量に影響を及ぼしている可能性が考えられた。
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