脂肪組織の成長は、脂肪細胞数の増加及び細胞内に脂肪滴を蓄積して成熟肥大化する分化過程に大別され、これら一連の過程はアディポジェネシスと総称される。最近の研究において、ヒトや実験動物における脂肪組織の成長には血管新生が必須であり、血管新生の抑制は脂肪組織を消失させることが報告された。加えて、成熟脂肪細胞自身が血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)といった血管新生因子を分泌することによって脂肪組織内の血管新生を誘導していることが判明した。VEGFやFGF2は血管内皮細胞に対する強力な増殖作用を有しており、血管新生制御を行うマスターレギュレーターである。個々の脂肪細胞の肥大化には限界があることから、ヒトや実験動物では脂肪細胞自らが血管新生を促進することによって新生血管周囲の脂肪細胞数を増加させると考えられている。しかし、反芻動物における血管新生因子発現とアディポジェネシスとの関連は明らかでない。そこで本年度は、肉用牛における栄養条件の違いが血管新生因子発現に及ぼす影響ついて、脂肪部位別に検討を行った。供試牛として黒毛和種去勢肥育牛を用いた。これら供試牛に対し、10ヶ月齢から30ヶ月齢までの肥育全期簡に、(1)粗飼料多給区(TDNベース粗濃比35:65に設定)、(2)濃厚飼料多給区(TDNベース粗濃比10:90に設定)に設定した肥育を行った。と畜時に皮下、腸間膜、筋間、筋肉内の各脂肪組織を採取した。各脂肪組織における血管新生因子及び脂肪細胞分化調節因子の発現量はリアルタイムPCRを用いて測定した。VEGF遺伝子の発現は、粗飼料多給区の腸間膜脂肪および筋間脂肪において濃厚飼料多給区より高い値であった。FGF2遺伝子の発現も同様の傾向であった。一方、脂肪細胞分化調節転写因子遺伝子PPARγやC/EBPβの発現は、濃厚飼料多給区の皮下および筋肉内脂肪において粗飼料多給区より高い値であった。以上より、粗飼料給与条件が肥育牛の脂肪組織における血管新生因子や脂肪細胞分化調節因子の発現に及ぼす影響は、脂肪部位によって異なる可能性が考えられた。
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