脂肪組織における血管の役割に関しては、これまで血液循環を介した栄養素の運搬役としてのみ捉えられてきた。一方、最近の研究において、ヒトや実験動物における脂肪組織の成長には血管新生が必須であり、血管新生の抑制は脂肪組織を消失させること、脂肪細胞の増殖は新生血管周囲で行われていることが明らかとなった。さらに、脂肪細胞自身がVEGFやbFGFといった血管新生因子を分泌することによって脂肪組織内の血管新生を誘導していることが判明した。したがって、肥育牛のアディポジェネシス制御機構を解明するためには、脂肪細胞自身の分化制御メカニズムの解明に加え、脂肪細胞と血管新生との相互作用を明らかにすることが必要であると考えられる。そこで本年度は、脂肪蓄積能力の異なる黒毛和種とホルスタイン種肥育牛の脂肪組織における血管新生因子遺伝子発現に関して検討を行なった。供試牛として黒毛和種去勢肥育牛並びにホルスタイン種去勢肥育牛を用い、と畜時に皮下、内臓、筋間の各脂肪組織を採取した。脂肪細胞のサイズの測定は、オスミウム染色法を用いた。各脂肪組織における血管新生因子遺伝子の発現量の測定にはリアルタイムPCR法を用いた。脂肪細胞のサイズは、皮下脂肪及び筋間脂肪には品種差が認められなかったが、内臓脂肪のサイズは、黒毛和種がホルスタイン種より大きい傾向が認められた。一方、VEGF遺伝子の発現量は、内臓脂肪においてホルスタイン種が黒毛和種より高い傾向にあった。一方、bFGF発現量には、品種差は認められなかった。以上の結果から、脂肪細胞の成熟肥大化の品種差は内臓脂肪において顕著であること、内臓脂肪組織成長におけるVEGF発現を介した血管新生誘導能はホルスタイン種が黒毛和種より高い可能性が推察された。
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