体外培養技術の改良により、体外成熟培養で受精・発生可能な成熟卵子を得ることが可能となったが、効果的に質の高い胚を生産し、個体作出に繋げるためには、質の高い成熟卵子を選別する必要がある。そのために卵子の「質」を評価するための方法の確立が求められている。この卵子の質を評価する指標として、顕微鏡下で観察が可能な紡錘体の形態に着目し、本年度は卵成熟過程における紡錘体形成・維持の分子メカニズムの解析を進め、以下のことを明らかにした。 成熟卵子において、受精・発生能が最も高いのは、紡錘体極に存在する2点の中心小体周辺物質が近接するポイントであり、このタイミングでは、微小管の安定性を制御する因子(CLIP-170)の発現が高く、細胞質中には微小管形成中心(MTOC)が大きなクラスターを形成して機能していることを明らかにした。すなわち、微小管が十分束ねられていることが精子侵入前に必要であることが言える。受精後の第二極体放出により減数分裂が完了するが、受精適期に精子侵入が起こらなければ、染色体の不分離にも繋がるため、受精適期の正確な判定が必要である。また、同じタイミングで、AktとmTORおよびその結合パートナーであるRaptorが紡錘体上で共局在し、一時的に微小管と結合している可能性を示した。Aktの阻害は、紡錘体の維持機構に影響を与えたことから、受精・発生能の高い卵子でみられる紡錘体形態の維持には、AktやmTORが積極的に関与しており、これらの因子が卵子の質(受精能力)を判定するひとつの指標になり得ると考えられた。
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