B6-Y.TIR性転換雌マウスでは、卵母細胞の発生という点において、B6-XX雌マウスと遜色ない表現型を示すにもかかわらず妊性がない。これまでに我々は、XY卵母細胞の第一減数分裂は正常に行われること、第二減数分裂以降の分裂に顕著な異常が現れること、この異常はXX卵細胞質にXY卵母細胞核を移植すると改善され産仔への発生支持能を獲得することを報告してきた。本研究では、XX卵母細胞とXY卵母細胞における遺伝子発現プロファイルを網羅的に比較・解析することにより、XY卵母細胞の異常の原因を考察することにした。その結果、XX卵母細胞とXY卵母細胞で20倍以上発現が変化している遺伝子は11、10倍以上発現が変化している遺伝子は32そして5倍以上発現が変化している遺伝子は197存在した。XY卵母細胞に異常が生じる一次的な要因は、Y染色体上の転写産物が卵子の発生・分化を阻害している、あるいはX染色体工の転写産物が不足していることが考えられる。そこで、性染色体上の遺伝子に着目してみると、XY1~XY3で共通して20倍以上発現が変化している遺伝子のうち3遺伝子がY染色体工に位置し(Eif2s3y、Ddx3yおよびUbe1y1)、同様に3遺伝子がX染色体上に位置することが明らかとなった(Itm2a、Bex1およびWbp5)。興味深いことに、Itm2a、Bex1およびWbp5遺伝子は、いずれもXY卵母細胞においてXX卵母細胞より高発現していた。XY1~XY3で共通して10倍以上発現が変化している遺伝子のうち性染色体に位置するものとしては、新たに1遺伝子(Fam199x;X染色体上に位置)が抽出され、これについては、XX卵母細胞でXY卵母細胞より高発現していた。XX卵母細胞の遺伝子発現強度の平均とXY1~XY3のそれぞれの発現強度を比較し5倍以上発現が変化している遺伝子プローブの総数は492存在し、これらをIPAにて解析した。その結果、これらの遺伝子群は(スコアーの高い順に)Reproductive System Development and Function、 Cell Death、 Cellular Development、 Cellular Movement、 Cellular Assembly and Organizationに関するネットワークで機能することが明らかとなった。
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