体細胞クローンを受胎した牛にみられる微弱な分娩兆候の要因を解明するため、分娩前の体細胞クローン胎子におけるコルチゾール生産能力を評価した。本年度は、胎子性コルチゾールによって分娩前に上昇する母体血漿グルコース(Glu)濃度と、同じく低下する胎盤グルコース輸送体(GLUT)mRNA発現を解析した。クローン受胎牛のGlu濃度は、分娩予定日の257および271日前、分娩直前のいずれの時期も対照牛に比較して有意に低く、妊娠257日に対する分娩前の上昇も有意に低かった。分娩直後の子牛の血漿Glu濃度は正常であった。クローン受胎牛のGlu濃度は子牛の生時体重と負の相関を示した。クローン受胎牛におけるGlu濃度の低下は、過大化したクローン胎子によるGlu要求量の増加が原因であり、生時体重の大まかな推定に利用できると考えられた。また、クローン受胎牛では分娩時のGlu濃度の上昇が少ないことから、胎子のコルチゾール分泌が不十分で、コルチゾールによるインスリン拮抗作用が亢進していないごとが示唆された。分娩時の母胎盤におけるGLUT発現量は自然分娩した対照牛で最も低く、次いでデキサメサゾン(DEX)、プロスタグランジン(PG)F_<2α>およびエストリオール(E3)を用いて分娩誘起した対照牛で低かった。DEX、PGおよびE3を用いて分娩誘起したクローン受胎牛のGLUT発現量は高く、PGF_<2α>とE3のみで分娩誘起した対照牛と同様の値を示した。胎子胎盤ではGLUT発現量に差はなかった。これらから、自然分娩における胎子性コルチゾールの分泌亢進およびDEXの投与は胎盤を介した胎子へのGlu輸送を抑制すると考えられた。しかし、クローン受胎牛ではGLUT発現が高く、胎子からのコルチゾニルの分泌が不足していることが示唆された。
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