【研究目的】乳腺組織には、乳腺上皮細胞によって構成される立体構造である「乳腺胞」が無数に存在し、乳腺胞は泌乳ステージにより形成と崩壊を繰り返す。乳腺胞の増減は泌乳量に対して直接的な影響を及ぼすため、胞形成の調節因子を調べることは産乳量を増大させるための研究の土台として非常に有効であるが、未だ不明な点が多い。特に、性ホルモンによる胞形成の調節は、その可能性が示唆されているにも関わらず詳細なメカニズムは明らかになっていない。そこで本研究は、ウシ乳腺上皮細胞(BMEC)の乳腺胞形成に及ぼす各種性ホルモンの影響や、性ホルモンレセプターの発現変動を調べ、乳腺の立体構造形成と性ホルモンとの関連性を明らかにすることを目的とした。 【本年度の結果概要】本年度は、前年度から継続して乳腺胞の形成から崩壊までの期間における各種性ホルモンレセプターmRNAの経時的な発現変動を調べ、その再現性を確認した。また、上記期間における各種栄養素輸送体mRNAの発現変化を調べることにより、乳腺胞形成と乳合成の直接的な関連性について検討し、in vivoのデータ(泌乳ステージによる乳腺組織における栄養素輸送体発現の変化)と比較・考察した。性ホルモンレセプターの発現については前年度と同様の結果が得られ、レセプターを介したエストロジェンやプロジェステロンなどの性ホルモンの作用が胞の形成および崩壊に影響を及ぼしている可能性が示唆された。さらに、BMECにおける栄養素(脂肪酸およびアミノ酸)輸送体の発現は、乳腺胞の形成とともに急激に上昇した。このことは胞形成とともに乳合成が活性化されることを示唆しており、また、乳腺組織における栄養素輸送体の発現は泌乳前期から泌乳中期にかけて大きく上昇していたことから、この期間における乳量の変化に乳腺胞の形成が関与している可能性が示唆された。
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