研究概要 |
本研究は、哺乳動物の受胎率向上に向けた新規技術開発に資する基礎的知見を提供することを目的とし、ウシの妊娠黄体ならびに非妊娠黄体間における遺伝子・タンパク質発現の違いを網羅的に解析することで、妊娠黄体に特異的な発現動態を示す生理活性物質の存在について検討した。 正常な発情周期を示すウシに人工授精した後、妊娠初期I(人工授精後20~30日)、妊娠初期II(40~50日)、妊娠後期(220日)にて倫理規定に従い屠殺し、妊娠黄体を採取した。同時に、対照として発情周期12日目の非妊娠黄体(周期性黄体)を採取した。採取した黄体は遺伝子発現解析用、タンパク質発現解析用として定法により処理した。このような妊娠期間の明らかな組織サンプルは極めて貴重なものであり、今後様々な研究へと応用可能と考えられる。得られたサンプルを用いて、リアルタイムPCR法により妊娠黄体と非妊娠黄体での遺伝子発現の違いを検討した。哺乳動物の黄体機能調節に密接に関与すると考えられるプロジェステロンならびにプロスタグランジン(PG)関連物質を中心に解析を行った結果、周期性黄体におけるプロジェステロン受容体の発現動態と局在が明らかとなり、妊娠黄体ではPGF2α受容体、PGE合成酵素発現が周期性黄体と比較して有意に高いことが明らかとなった。さらに、プロジェステロン受容体、黄体形成ホルモン受容体、PGE受容体(EP1, EP2)発現には妊娠黄体と周期性黄体の発現差が見られないこと、他の動物種や組織と異なりウシ黄体ではPGE受容体(EP3, EP4)およびPG代謝酵素(9K-PGR)が存在しない可能性が示された。これらの結果から、ウシにおける非妊娠黄体と妊娠黄体の機能的な違いが明らかとなり、妊娠することで有意にその発現が変化する生理活性物質の存在することが示された。
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