本研究では、哺乳動物の受胎率向上に向けた新規技術開発に資する基礎的知見を提供することを目的として、ウシの妊娠黄体ならびに非妊娠黄体間における遺伝子発現の違いを網羅的に解析することで、妊娠黄体に特異的な発現動態を示す生理活性物質の存在を検討するとともに、非妊娠期の黄体や子宮内膜における種々の生理活性物質の機能解明を実施した。 正常な発情周期を示すウシに人工授精した後、妊娠初期I(人工授精後20~30日)、妊娠初期II(40~50日)、妊娠後期(220日)にて倫理規定に従って屠殺し、妊娠黄体を採取した。同時に、対照として発情周期初期(排卵後2~4日)、中期(8-11日)、後期(14~16日)、退行期(19~21日)の非妊娠黄体(周期性黄体)ならびに子宮を採取した。採取した黄体および子宮は遺伝子発現解析用、タンパク質発現解析用として定法により処理した。リアルタイムPCR法により妊娠黄体と非妊娠黄体での遺伝子発現の違いを比較検討した結果、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を誘起することが知られる主要壊死因子(TNF)やFasの発現が妊娠黄体では非妊娠黄体と比較して有意に高いことが明らかとなった。一方、TNF受容体(TNF-RI、TNF-RII)ならびにアポトーシス抑制因子であるcFLIPの発現には、妊娠黄体と非妊娠黄体間で有意な差は見られなかった。また、周期性黄体や子宮内膜において、TNF、TNF-RI、TNF-RIIの遺伝子ならびにタンパク発現の違いが明らかとなり、その細胞局在が明らかとなった。これらの結果から、妊娠することで特異的に発現の変化する生理活性物質の存在が示され、ウシにおける非妊娠黄体と妊娠黄体の機能的な違いの一端が明らかになるとともに、TNFといったサイトカインが黄体や子宮の機能調節において、妊娠期・非妊娠期を問わず重要な機能を持つことが示された。
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